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不動産鑑定徒然草 (2013/1/31 by 山口 隆)
                                                                                                                                                印刷用<click here>


BOIDSとインフレ期待(山口仮説No.4)


バブルの原因究明は不可能に近いと考えられてきましたが、自然科学の進歩を取り込み、
従来タブーとされがちだった「人を生物として見る視点」で考えると本質的な姿が見えてきます。
本稿は近時有力となっている「アニマルスピリット」を重視した経済理論を起点に考察を進めたものです。

<注(5/22).. 2013年1月現在(1ドル80円台・日経平均1万円台)の草稿である点にご注意下さい>
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<INFLATIONARY EXPECTATIONS について>

  訳しにくさ:
  日本語では「期待」と訳されるが、希望する意味ではなく、予想・予期する意味である。
  本稿では、物価全体に係るものを「インフレ期待」、特定資産に係るものを「値上がり期待」と記した。


<古い脳に由来する経済現象の見つけ方>

  インフレ期待とは:
    1. インフレがある程度続くと、
        今後もそれが持続するものと想定して経済主体が行動するようになるという心理的傾向。
    2. 仮需要を増大させてインフレの鎮静を妨げたり、さらには狂乱物価の原因となるなど、
        実体経済の正常な活動を阻害する働きがある。
          ↓
  見当のつけ方
    1. 困った問題が、自然と出てくる→ 新しい脳が作ったシステムと古い脳の不整合に起因する可能性あり
    2. 対応関係の調査→ 「市場の動き」は、古い脳では「群れの動き」に対応している
    3. 群れの動きの何に対応しているか→ BOIDS
      (新しい脳を使って「群れの動きに合わせても(不確実性の介在)」全体の動きは理性的にはなりにくい)
      (人が新しい脳だけで動いている前提で考えると、前行だけが見えてしまうので注意のこと)


<生物的視点からの考察>

  現代人は、狩猟採集時代と基本的に同じ体で、現代の複雑な社会を生きている。
  (使用単語数の比較: 数百語→ 専門用語合わせて数十万語)
  各人は、自分の専門分野は深く掘るが、他人の専門分野は掘らずにラベルで見がち。
  人の心の中の財布は、一般会計と、特別会計に分かれている。

  インフレ期待がBOIDSのようなもので動いているならば(山口仮説No.4):
  群れの動きの中で、各個体は、
     近づきすぎると離れ(独立して意思決定を行いつつ)、                                            ← 分離
     多くいる方(皆がやっている方)へ向かいながら、                                                   ← 結合
     方向(値上がり・値下がり)や速度(上昇率・下落率)を合わせているはずである。        ← 整列
  参照動画: BOIDS:click here 共振:click here

  生物の例: 小魚の群れ
    1. 連鎖反応・相転移→ 情報等が伝播して、動きが連鎖的に変わり(一瞬で)、方向や速度が変わる。
    2. 新しい常識・ムードへの同調→ 新しい動きに合わせて、各個体が動くようになる。
  人は、無意識に、これに似た動きを超スローモーションで行っている(但し「人の手」や個性差が存在する)。

  インフレが続くと、今後もそれが持続すると予想して 経済主体が行動するようになる心理の背景は、
    1. 絶対的位置で考えると: 人間は、環境に適応したあと、今の状態を普通と考える傾向がある。
    2. 変化の方向で考えると: 同方向の進行が続くと考える傾向がある。
    3. 相対的位置で考えると: 皆が似た状態なので、変だと感じない。
    4. 群れの動きの中で、「常識・ムード」が形成され、それに合わせて動くようになる。

  「金利はマイナスにできないので、インフレターゲットを設定する必要がある(クルーグマン)」は、実現し得る。
    1. インフレ期待や値上がり期待は、価値に連動せずに、独立して動き得る。
    2. 価値に連動しなかった特定資産のバブルは、後に群知能で調整され、バブル崩壊が起きる。しかし、
       インフレで貨幣の相対価値が下がっても、現代の貨幣は実物(貴金属等)でないため、調整は起きない。
      (歴史的破局が起こらない限り・但し為替相場に影響する)
    3. まず人の心(マインド)があり、環境のようなものとして金の量があり、相互作用がある。
    4. 方向や速度は、元来、時々変わっている。
       国民の期待とリーダーの強いパフォーマンス、危急の事態・衝撃的な出来事の発生、新技術の登場、
      (もちろん金融財政政策・ファンダメンタルズ)..etc.. 時には、錯誤や思い込みの伝播でも変わっている!

  要は、「皆がその気になって」「緩やかなインフレが常識となれば」、デフレからの転換は実現しうる。
  問題は、現状では「皆がその気になっていない」こと。
  不況を増幅している不安・悲観からの脱出と、自信の回復が必要!

  (但し、回復後は、金が投機に雪崩れ込んで暴走しないよう、チェックを!)

  .................

  (追記)「心の軌跡-1」

  不安の原因がわからないこと自体が不安を生む要因となっている。
  その中の一つに、おそらく、バブルの精神的な後遺症がある。
  (「ヒドイ目にあった」という焼け棒杭に火が付く)

  かつて上向きに飛んだことで、「ヒドイ目にあった!」
  バブルは起こらないという安心感がないと、不安で「上向きに飛べない!」
  バブル期の物価変動については、「知らない」「高騰した」という人が意外に多い!
  「バブルの原因は低金利だった」といわれながら、「今、低金利(原因)の中にいる」、自縛の構造がある。
  (一般会計と特別会計の混同/原因の単純化)

  将来に向け、バブルのメカニズムを解明する仕組みを作る必要がある。←不動産のビッグデータの解析

  .................

  (追記)「心の軌跡-2」

  日本の戦後史は焦土からの出発だった。
  戦後復興は、日本人共通の悲願であった。
  それが、四十数年間、心の奥底にあって、ひたむきに頑張った!
  後から思えば、1980年代は、その完結期だったのではないだろうか!
  インフレ率の低下は、それを象徴する出来事の一つだったように感じられる。
    1. (赤字・黒字) → 貿易黒字の継続 → 定着
    2. (貯蓄不足) → 貯蓄超過の継続 → 定着
    3. (インフレ継続) → インフレ率の低下 → 定着        ←
    4. (企業戦士) → 余暇のある生活 → 定着
    5. 所得の向上

  バブル後は、「もう日本は十分豊かになったから」と、すっかり雰囲気が変わっていた。

  .................

  (追記)「BOIDSと人の手」

  連鎖反応は頻繁に起きて局所的な波が出来るが、一斉反応となって基幹的な波となる頻度は低い。
  (ブームと同じ)

  基幹的な波の途中では、方向や速度を変えようとしても、効果が弱い。但しパニックによる増幅を抑えられる。
  (物価・為替・地価の過去の例: インフレ鎮静化キャンペーン、為替介入、監視区域の導入 etc.)

  基幹的な波の変わり目の時期(連鎖反応・臨界超過・新たな常識が形成される時期)には、効果が強く出る。
  (物価・為替・地価の過去の例: デノミ、プラザ合意、総量規制(これら自体にも効果はあるが) etc.)

  固定相場を導入すると、強い群れ行動は起こりにくい。しかし、長期的な歪みを自動調節できなくなる。
  (生物の例: リスク・不確実性が少ないと、強いBOIDSは起こりにくい。 →
    移動・被食のない水槽の中で、メダカは群れ行動をやめ、各自が縄張りをつくるようになる)

  .................

  (追記)「BOIDSとインフレ」

  金の量の増加がインフレにつながらなくなった理由の一つ(私見)

  不況で経済が活発でないから ・需要が供給を下回っているから ・使わない者の預金になるから ・ ・
  基本構造: 人の心が動かない→ 増えた金が動かない→ インフレにならない

  <以下、上記の他、群れ行動との関係について記載する>

  急なインフレの背後には、まず人の心があり、環境のようなものとして金の量があり、相互作用がある。
  リスク・不確実性が高いと、生命保存のための基礎的な感情(不安・上気・マニア等)が出てきやすい。
  強い群れ行動が起きて、金の動き(速度・量)が強まり、急な価格上昇が常識化して定着する。

  【何らかのムードときっかけ ⇒ 強いBOIDSが起きる (欠乏不安→ 物価が上がる予想に転化→
    1: 値上げする・高くなっても買う→ 価格上昇→ 金が強く動く→ 価格上昇→ 常識化) ⇒ インフレ継続】
    2: 今買おうとする・売り惜しむ→ 価格上昇→ 金が強く動く→ 価格上昇→ 常識化) ⇒ インフレ継続】
   (強い群れ行動が増幅要因として働いている)

  第一次オイルショック時の狂乱物価では 「正のフィードバック」「テンポの速い連鎖反応」 が起きていた。
  (砂漠飛バッタの群生行動が起きるときと同じ現象→ The Perfect Swarm(Len Fisher)参照のこと。
    個体間の距離が狭まると(餌不足の前兆)、セロトニンが分泌され、群生行動が起きることがわかっている。
    最初は各個体のランダムな動き(正規分布)だが、次第に群生行動(ベキ分布)に変化し、一斉行動となる)
  人間でも何らかの神経伝達物質が関わっているはずである ‥(脳神経科学の進歩で解明が進んでいる)‥
    不安や恐怖・怒り・上気・不安克服・信頼 ‥ノルアドレナリン・アドレナリン・ドーパミン・セロトニン・オキシトシン‥
  暴走は一者の善行では止まらないと皆が思っているから皆がやる→ だから暴走は一者の善行では止まらない
  → ゆえに暴走は一者の善行では止まらないと皆が思うようになる→ それを知って参加者が増える→ repeat

  前年からの列島改造ブーム(期待の暴走) + 変動相場制移行でマネーサプライが増えていた + オイルショック
  → 列島改造は将来の構想だった、原油支払額はGDP比4%up、しかし消費者物価は3年で1.5倍になった。
  → いくら首相が絶叫してもトイレットペーパーの買いだめは収まらなかった。もっと強い力に突き動かされていた!

  さらに破滅的な例としてハイパーインフレがあるが、それは国に対する信頼が崩れたとき(+紙幣増刷)起きている。
  (交換を可能にしている大本は「付加価値を生む力」+「当事者間の信頼が崩れたら強制力で付加者を守る」)
  (不換紙幣の流通は国(政府を含む統治機構)に対する信頼がなければ成り立たない)

  リスク・不確実性が少ない所では、強い群れ行動は起こりにくい。

  現在の日本では、「一次産品や投機対象資産」以外の商品に関わるリスク・不確実性は低減している。
    1. 生産技術・流通技術の進歩、それらに対する信頼感の向上
      (需要が増えても待てば追加供給が可能・価格は上がらない ←その信頼感が欠乏不安の発生を抑えている)
    2. 国に対する信頼 ←これがあるから不換紙幣や電子データでも交換が成り立っている
    3. 金融政策等に対する信頼感の向上
      (日頃は空気のような存在でも、存在すること自体、及び、信頼感が欠乏不安の発生を抑えている)
    4. 資産デフレや、円高・安価な輸入品等で価格低下圧力が続いた
    5. 慣れ(例:原油が高騰しても昔ほど強烈な不安を感じなくなった・GDPの増大や円高もあるが)..etc. etc.

  それでも、危急の際に欠乏不安が伝播して、買いだめが発生することはありうる。
  例:東日本大震災 ← 様々な商品が数週間店頭から姿を消した - それでも価格は上がらなかった。

  通常のモノ・サービスに関わる緩やかなデフレの原因について説は分かれるが、
  過去数十年を振り返ると、「急なインフレは悪かった」、「横ばいはデフレになりやすかった」、「デフレは悪かった」。
  時間をかけて、「緩やかなインフレ位がちょうどいい」と、世の中の常識が変わる時代なのかもしれない。

  キーワードは、
  「皆がその気になるかどうか」
  「水槽の中の一部に緩やかな水流をつくること」

  .................

  (追記)「BOIDSと予言の自己実現」

  BOIDSの中では、常識(ひいては予言)の自己実現が起きている。
  (常識が予言に転化する例:「地価は上がり続ける!常識だ、現にこんなに上がってるじゃないか!」)

  何かがきっかけとなって、将来、デフレが続くことが常識(予言)になると、
  皆がそれに合わせて動くようになり、常識(予言)が自己実現して、デフレが継続する。
  そこから脱出するためには、その常識(デフレが続く予想)を変える必要がある。

  これに似た構造は、私達の心の中にもある。
  何か悪いことがあって気持ちが落ち込むと、どんどん悪い方にいく。  ← スランプ
  「また負けるかもしれない‥」 → 体がそれに合わせて動くようになる → また負ける!
  言葉でいうのは簡単だが、難題。 しかし、誰もがそれを経験し、乗り越えてきたはずである。

  .................

  (追記)「BOIDSのプログラムについて」

  バブルに応用するには、既存のBOIDSのプログラムは、連鎖反応のプロセスが不足している。
  人間では、連鎖反応が、超スローモーションで起きるため、それをプログラムに加える必要がある。
  金余りや自信にあふれた時代を、連鎖反応を増幅する環境として入れる必要がある。
  人間には、イノベーター理論のような個性差があり、波は引かれながら進んでいる。

  人は、通常、基幹的な波(常識)を踏まえて、新しい脳で情勢を考えて、判断を行っている。
  (常識を踏まえない者は少数である。但し学習の結果、常識を踏まえない者・利用する者もいる)
  特定の種類の「人の手」に集中した巨額な運用資金が、波の変化を加速する場合が起こり得る。
  また、政府・中央銀行による「人の手」が入る場合があるので、これらもプログラムに加える必要がある。

  中身を見ずに誰もが信じていたラベルの崩壊は、恐怖を生みパニックを誘発し、変化を激化することがある。
  パニックは、しばしば、科学的な事実を打ち破って、新たな現実を形成する。
   etc. etc. . .

  より深く見るならば‥
  大きな波を拡大すると、頻繁な、小さな波の集まりでできている。
  小さな波を拡大すると、より頻繁な、より小さな波の集まりでできている。(フラクタル構造)
  さらに拡大すると‥
  波←人の反応←不確実性+思考+環境+学習+心←脳・神経・細胞←遺伝子+自然法則 ‥の構造がある。

  出来事の多くは波の影響を受けて起きており、話題となることで人の心・反応と相互作用している。
  一喜一憂しては忘れ、驚愕歓喜しては忘却し、その繰り返しの軌跡がべき分布していく‥

  これらの背後には、自然の摂理「自己組織化・創発」が存在する。
  この構造は「構成要素+まとまる力」が存在することにより成り立っている。

  → 「自己組織化・創発」参照のこと
  → 「素粒子」参照のこと




不動産鑑定-01
      <目次>
       1. 「バブルの原因は何だったのか - 総括 -」
       2. 「バブルの原因は何だったのか - 群知能 -」
       3. 「バブルの原因は何だったのか - 投機熱の伝播 -」
       4. 「バブルの原因は何だったのか - 投機.価格.価値の遺伝子 -」
       5. 「バブルの原因は何だったのか - 新型発生のメカニズム -」
       6. 「BOIDSとインフレ期待」                                                         ← We are here!
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